ヒマラヤ遠征隊員が身に着ける計測器と、研究の中心となる信大大学院の宮川さん |
信大山岳科学総合研究所(松本市)は、信大山岳会のOBでつくる信大学士山岳会が9〜11月にネパール・ヒマラヤに送る遠征隊に依頼し、高地での運動機能と山岳環境への人間活動の影響を調べる。標高4千メートルを超える山々が研究フィールドとなることで、「日本国内では取れない貴重なデータを集める機会」(鈴木啓助所長)となる。集めたデータは中高年の安全登山や酸性雨研究に生かす考えだ。
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高地での運動機能調査は、同研究所の高地医学・スポーツ科学部門長の能勢博教授の研究室が担当する。9月13日〜10月26日にマナンヒマールの6千メートル峰3座の登頂に挑む第2隊の5人と、9月22日〜10月19日にアンナプルナ山群を一周(高低差は796〜5415メートル)する第3隊に参加する17人の計22人について、行程中の心拍数と運動量を計測。酸素濃度が薄い高所環境が運動に与える影響を調べる。
隊員は、能勢教授らが開発した運動量計測器を腰に、胸には心拍計を装着。計測器には高度計のほか、前後と左右、上下の運動を計測する機能があり、消費カロリーを計算して記録する。帰国後、データを基に高度や登下山の運動によるカロリー消費と、心拍数の上昇がどのように関連しているか調べる。
隊員には、高山病の症状の有無や体調、疲労の度合いを調査用紙に毎日記入してもらい、高地順応の様子も調査する。能勢教授は集めたデータから、脱水症状や高所反応などを推定し、中高年の安全登山への指標作成や、登山者に安全のためのメッセージを伝える機器の開発につなげたい考えだ。「高度や体力に応じて高山病になるリスクなどをアドバイスできるデータを集めたい」としている。
同研究室で運動生理学を研究しており、調査の中心となる大学院生、宮川健さん(29)は「自身の体力を知らないことが中高年の登山事故につながっている。登山事故の予防医学で信大が日本の登山研究をリードする一歩にしたい」と話している。
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山岳環境調査は、雪氷学を専門とする鈴木所長の研究室が中心となる。第2、3隊のほか、ネムジュン(7139メートル)北西壁の登頂などを目指す第1隊に依頼し、ヒマラヤ山域での河川水や雪を50〜500ミリリットルのボトル約50本に採取する。持ち帰った水に含まれるナトリウム、塩化物イオンの成分などを調べる。
鈴木教授は「窒素酸化物や硫黄酸化物などの大気汚染物質がどれくらい含まれているかに注目したい」。北極、南極と並び地球の極地とされるヒマラヤの7千メートル級の山々について、「インドや中国など工業化が進む国が近隣にあり、人間の活動の影響がどのように現れているか興味深い」と話している。
学士山岳会のヒマラヤ遠征は信大創立60周年に合わせて企画。宮崎敏孝会長(67)=農学部教育特任教授=は「海外も対象とする信大の山岳研究をアピールし、山に関心の高い人材も大学に集めたい」と話している。